お釈迦様と王様(2)

○ジャータカ第314話 『鉄釜前生物語

 これは師(釈迦牟尼仏)が祇園精舎に滞在しておられたとき、コーサラ王について語られたものである。そのおりコーサラ王は夜分に四人の地獄の亡者たちの声を聞いたということである。一人は<ジャ>音、一人は<サ>音、一人は<ナ>音、一人は<ソ>音ばかりを発していた。彼等はむかしサーヴァッティーで他人の妻と通じた王子たちであったそうである。彼等は大事に護られている他人の婦人たちに罪を犯し、心の欲するままに楽しんで多くの悪業をなし、死の車輪に砕かれてサーヴァッティー付近にある四つの鉄釜の中に生まれ、六万年ものあいだそこで煮られ、うえによじ登り鉄釜の口の縁を見て、「われわれはいつになったらこの苦しみからのがれるのであろうか」と、四人ともつぎつぎと大声で叫んだ。王は彼らの声を聞いて、死の恐怖におののいてすわったまま夜明けまで起きていた。
 夜明けが来るとバラモン達がやってきて、王にご機嫌よくお休みになれましたかと尋ねた。王は、
「先生がた、わたしはどうして機嫌よく眠れましょうか。そのときわたしは、こういう四つの恐ろしい声を聞いたのです。その災いをとり除くことができるでしょうか、だめでしょうか」
「そのままにしておいては駄目でしょう。しかしわたしどもバラモンはこの種のことによく通じております、大王さま。わたしどもは偉大なる厄除け行事を行なうことができます。わたしどもは一切の四部分からなるものの犠牲を執行して厄除けをいたします」
 コーサラ王は「それではただちに象四頭、馬四頭、牛四頭、人間四人、ウズラをはじめとして生き物を四匹ずつ取って、一切の四部分からなるものの犠牲祭を執行し、わたしの平安を確保してくだされ」と言った。王の許可を得たバラモン達は、必要なものを取り、犠牲祭の場を設けさせた。多くの生き物を祭柱まで運んで来ておいた。「多くの魚や肉を食べてやれ、財産も手にいれよう」と一生懸命になって、「これも手にいれたほうがよろしゅうございます」と次々とやって来ては要求した。マッリカー王妃がコーサラ王のところへやってきて
「大王様、いったい何のためにバラモンたちはとても忙しく行き来しているのですか」と尋ねた。
「妃よ、これはそなたには関係のないことじゃ。そなたはおのれの名誉に酔いしれて、わしの苦しみなど知らぬのだから」
「それはどんなことでしょうか、大王様」
「わしはこういった聞くに堪えないものを聞いたのじゃ。それでこんな声を聞いたことから何が起こるであろうかとバラモンたちに尋ねたのだ。バラモンたちは『大王様、貴方様の王位が財産か寿命に障難が見えております。一切の四部分からなるものの犠牲祭を執行して王様の平安を確保いたしましょう』と言って、彼らはわしの命令に従って犠牲祭の場を設け、それぞれ必要なもののために来ているのじゃ」
「しかし王さま、その声のもたらすところを、天界をも含めてこの世での最上のバラモンさまにお尋ねになられましたか?」
「妃よ、天界をも含めてこの世で最上のバラモンとはいったい誰じゃ」
「正しく悟りをひらいた人、マハー偉大なるゴータマさまです」
「妃よ、わしはまだ正しく悟りを開いた人に尋ねてはいない」
 王は妃の言葉を聞いて、車に乗って祇園精舎におもむき、師(釈迦牟尼仏)に御挨拶申しあげてからたずねた。
「尊師(お釈迦様)よ、わたしは夜分に四つの声を聞いたので、バラモンたちにたずねますと、彼らは『一切の四部分からなるものの犠牲祭を執行して平安を確保いたしましょう』と言って、犠牲祭の場で仕事をしております。この声を聞いたことから私に何が起こるのでしょうか」
「大王よ、何事も起こりません。地獄の亡者達が苦しみに会ってそのように叫んだのです。この声はいま大王によって聞かれただけではなく、昔の王達によっても聞かれたのです。その王たちもバラモンたちにたずね、動物を殺す犠牲祭を執行しようと欲したのですが、賢者の話を聞いてしませんでした。賢者たちはその声の秘密を説き明かして、おおくの生き物を放たせて無事にしてやったのです」と言って、請われるままに過去のことを話された。

 むかし、バーラーナシーでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩(お釈迦様の前世)はカーシ国のある村のバラモンの家に生まれ、成年に達して諸々の欲望を捨てて、仙人の出家道を修めて瞑想と神通力を得て、瞑想の楽しみを享受しつつ、ヒマラヤの心地よい森林に住んだ。そのときバーラーナシー王は、四人の地獄の亡者たちの四つの声を聞いて恐れおののいた。同じようにしてバラモンたちに「三つの障礙のうち一つが起ります。一切の四部分からなるものの犠牲祭によってそれを鎮めましょう」と言われて同意した。宮廷付きの司祭官はバラモンたちとともに犠牲祭の場を設け、多くの生き物が祭柱へと運ばれていた。
 このころ菩薩は慈悲の修練を第一の目標としていたが、天眼でもって世間を見わたし、この行ないを見て、「いまわたしは行った方がよい。多くの生き物が無事助かるであろう」と、神通力をもって空中を飛んで、バーラーナシー王の庭園におりて、めでたい石板のうえに黄金の像のようにすわった。
 そのとき司祭官の一番弟子は師匠のところへ行って、「先生、わたしどものヴェーダ聖典には、他の者を殺して無事にすむことはない、と書いてありますが」と言った。司祭官は、「お前は王の財産を運んで来い。我らは多くの魚を喰らおうではないか。黙っておれ」と弟子をしりぞけた。弟子は「自分はここにくみしてはいられない」と立去って王の庭園に行き、行者(菩薩)を見ておじきをし挨拶をしてから一方に坐った。行者(菩薩)は「青年よ、王は正しく国を治めていますか」と尋ねた。
「尊師さま、王様は正しく国を治めておられます。しかし夜分に四つの声をお聴きになり、バラモンたちに御下問になりました。バラモンたちは『一切の四部分からなるものの犠牲祭によって平安を確保しましょう』と申しました。王様は動物を殺す祭儀を行なって御自分の平安を得ようとなされ、多くの生き物が祭柱へと運ばれました。尊師さま、あなたさまのように生活規律を護っておられるかたがその声をもたらすところをお説きになって、多くの生き物を死の入り口からお救いなさるのがよろしいかと存じます」
「青年よ、王は私を知らないし、私もまた王を知りません。しかしその声のもたらすところは知っているので、もし王が私のところへ来て尋ねるのであれば、話で疑問を解いてあげよう」
 青年バラモンはただちに王にそのことを告げて、庭園に王を連れてきた。王は仙人(菩薩)にお辞儀をして一方に坐り、四つの恐ろしい声について尋ねた。行者(菩薩)は丁寧に一切を説明する。
「大王よ、その者たちはむかし大事に護られていた他人の婦人たちに不義をはたらいて、バーラーナシー付近にある四つの鉄釜に生まれ、煮えたぎる刺激の強い鉄水のなかであぶくを立てながらでられ、三万年間下に行って釜の平底に打ちあてられ、上へ登ってきては三万年ものあいだ釜の口を見ました。四人は外を見まわして、四つの詩を完全にとなえたいと思ったのですが、そのようにはできません。〔冒頭の〕一文字ずつを言っただけで再び鉄釜に沈んでしまうのです。四人のうちで<ジャ>音を発して沈んだ亡者は次のように唱えたかったのです。

邪悪じゃあくなる生活を我等は送れり。財ありながら善き布施を行なわずして己の庇護所を造らざりき』

 しかし、全部を唱えることはできませんでした」と言って、行者(菩薩)は自分の智慧でもってその詩を完成して説いた。残りの者たちにおいても同じことである。そのうちで<サ>音を発してとなえようとした者の詩はつぎのとおりである。

『さても六万歳の時がすべて満つるあいだも、地獄にて煮らるる者にはいつにその果て来たらんや。』

<ナ>音を発して唱えようとした者の詩は次の通りである。

『なしやそのて、果ては如何でかあらん。果ては見えず。ともがらよ、そのとき我と汝の罪はなされたればなり』

<ソ>音を発して唱えようとした者の詩は次の通りである。

『そこよりゆきてこの我は、人間の胎に宿り、温和にして規律を保ち、おおくの善業を積みあげん』

 以上のように行者(菩薩)は一つ一つ詩を説いて「大王よ、この地獄の亡者は、この詩を完全にして唱えたいと思いながらも、自分の罪が大きいためにそのように出来なかったのです。そのように彼は自分の行ないのむくいに会って叫んでいたのです。あなたがこの声を聞いたからといって、障碍があるわけではありません。あなたは恐れるには及びません」と王を教え諭した。
 王は多くの生き物を放たせ、金の太鼓でお触れをまわさせ、犠牲祭の祭場を壊させた。行者(菩薩)は多くの生き物を無事に救って、数日そこにとどまってから帰り、休むことなく瞑想をつづけて、梵天界に生まれかわった。師(釈迦牟尼仏)はコーサラ王にこの教えを解かれて、過去の前生を現在にあてはめられた。「そのときの司祭官の青年はサーリップタであり、行者は実にわたくしであった」と。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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