第十六章「二度目の沓島詣で」 露探の嫌疑/預言の實現

△露探の嫌疑

 沓島めしまはまの朝風に吹かれてしずかに浮いている。昨夜の物凄さにえ浪もしずまって、はま千鳥ちどりさえ鳴いている。教祖〔直子刀自〕は昨夜の有様を思い出して、到底この二人のものは以後が苦業の側にはべらせて、何日いつまでもの島に置かれないと心配し出したのである。それかとうて、海路へだてた綾部へ今にわかに帰へそうとしても帰へすけにも行かない。今は神にうかがいを立てて見るよりほかはないと、一念に海の彼方に向って祈願をめた。ややしばらくして、何処どこよりともなくほがらかな聲で
『御用はんだから明日は御迎えに来る』
 との神託しんたくが聞えた。心ばかりの焚火をしてあたたまっている二人のものにの事を告げると二人は小踊りして喜んだ。しかあらかじめ期日が来ないのに、また船もないのに、どうして帰るのか一向合点がてんが行かなかった。
 教祖は明日いなしてやる、船を呼び寄せて帰してやると云われたが、いまだ約束の三十日目には日数があるので、迎えの船が来るはずもなく、二人は如何どうなる事かと、翌日が待たれて其夜は眠られなかった。


△預言の實現

 話変わって此方こちらは舞鶴の浜辺、しかも所は浜辺を去った遠き沖合である。多くの漁師達がわいわい騒ぎながら沓島めしまの方を眺めている。一人の漁師が
『沓島の岩の上へんだか人影の様なものが立っているが、お前の眼に見えるかい』
『ありゃ、人間かな、どうも人間にしては変だな』
 二人の漁師がこんな話をしている。気の早い連中が舞鶴港の鎮守府ちんじゅふへ告げに行った。一方は漁師達、近頃ちかごろ日露戦争が開始されているのだから、或はあの沓島にたん〔ロシアのスパイ〕でも来ているのかも知れない。一番船をぎつけて、の正体を見届けんものと、それから大騒ぎとなって七・八そうの船を漕ぎ出して、沓島の人影を確めるべくどんどん進行を続けた。此方こちらは島の教祖達三人、いよいよ迎えの船が来たのだとのみ喜んで居る。漁師の船は沓島近くまで来ると、大きい聲で怒鳴り出した。
何處どこの者か』
綾部あやべの者だ』
にしに来た』
『神様の御用で来た』
 こうした問答が、海の上からと島の上から取り交わされる。漁師達は何んの事やら、一向見当が取れぬ。第一綾部のものだと云うことが合点が行かぬ。そこで漁師は
『それなら岩吉を知ってるか』
『知ってるとも、そりゃ隣の者で相変らず博奕ばくちを打っている』
 初めて漁師達は疑いが晴れた。人影は露探ではなくて、立派な日本人が三人も島にいることが判明した。船頭たちも少し呆気に取られて、船を漕ぎ返へそうとしている。教祖は此のまま帰られては一大事、第一、二人の者は夢中になって船に乗せてれと泣いて居る。やうやう一艘だけ漕ぎ戻さして、乗せて帰る事になった。
 教祖は船の中に乗り移ってから、船頭に、
『日本はもう安心だ』
 謎のような言葉が教祖の口から出た。それが船頭の漁師達には分らなかった。

 教祖の預言は数日にして実現された。すなわち教祖が沓島出修より、旬日とうかも経過せぬ内に、バルチック艦隊全滅、皇軍大勝利とう報道は新聞紙に現はれた。国民はげて有頂天になって、の勝利を祝福したのであった。くのごとくに教祖の沓島出修は意義があった。時に教祖七十歳、出修十三日目にして帰綾された。そのときのお筆先はうであった。

 長らくの信心を、変らず待ちたまつごころしのび心の可愛かあいさよ、あつき心を胸に喜ぶかし。
 もと入口いりぐち出口でぐち大島おおしまもとになる、北は出口のはじまりだぞよ。
 世が変れば松のの、先は広き世になれど、今はさびしき、厚き心を胸に喜ぶ。
 出口なほが七十歳の折り四月十日に沓島めしまに十三日た折りのしるし書き置くぞよ。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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