第十六章「二度目の沓島詣で」 乙姫の出現

△乙姫の出現

 丁度ちょうど教祖〔直子刀自〕が沓島めしま参籠中の十一日目の夜であった。夕暮れがたから海の彼方かなたの空に、一點いってんの怪しい黒雲が浮かび出したかと思う内に、見る見る空一杯に墨を流したるごとく、一天いってんにわかき曇り、しのような雨がさっと降り出した。沖から吹き立つ颶風はやては、天をも巻き返えすかと思われ、雷鳴さえ加わって怒濤どとうは岸をも砕けよと押寄せて来た。教祖があら茣蓙ござの上に立てられた神燈しんとうともしびも、あなやと思う暇もなく、はったと消え去った。二人の若者は教祖のそですがりついて、ぶるぶる震えている。教祖は目をえて、この黒雲の彼方の虚空をじっち見詰みつめ、だいばんじゃくのようにゆるぐ気色けしきもなく、すわったまま、身動き一つしない。夜は次第次第にけ渡りたけり狂う荒浪は今にもこの行場の岩石を引きさららんとしている。丁度夜の一時か一時半とおぼしひ時であった。さても不思議や、ときしもあれ、海の彼方から微妙びめうなる奏楽そうがくに連れて、いとほがらかに人の聲とも覚えざるたへなる音聲と共に、静かに近づいて来るものがあった。教祖は“きつ”と形をあらためて見るともなく、それを眺めて居ると、りゅうぐうからのお使いか一人のおとひめが立っているのである。教祖はハッと思いながら、少し頭をれた。

うしとらこんじん様に御挨拶にまいった。日本を攻める異国の船が沢山参ったから、れから御手伝いに参った』

 との妙なるこえも聞き終わらぬうちに、にわかに教祖はかんがかりとなられた。身をぶるぶる震わして全く神境の人であった。教祖はしばらくして大きい聲で
苦労くろうさま、御苦労様』
 と二度程となえられた。そしてもなく、我と我が身に気がいた時には、今まで龍王も怒って波を蹴ってたかと思われる怒濤さえ、たちまち消えせているのであった。そして夜半のそうした風波も跡形なく、なみしらたへ小波さざなみと化して、油を流したるがごとき海原となって居た。
 教祖は余りのありがたさに、すべての心にえいずるものは、皆歓喜の種となった。教祖は初めて自分の膝元に打ち倒れている二人のものに気が付いて起こしてったものの、まるで半病人のようにも見えた。二人が焚火のりょうでもがしに行くのか、ひょろひょろしながら歩くの後姿を見た教祖は、たまらなく悲惨にも思われたのであった。



テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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