第十六章「二度目の沓島詣で」 沓島の荒行/神徳の淡水

△沓島の荒行

 遠く陸を離れた孤島沓島めしまは、例によって断崖絶壁に打ち寄せる怒濤どとうは物凄く、訪づるものとてはサバ鳥の鳴く音のみである。教祖は絶海一眺を牧むる岩石の上に、あら茣蓙ござを一枚を敷いて、昼夜一睡だにせず祈禱きとうを続ける事となった。あるいは海辺近く下っては、御祓おはらいの荒行を続けられる。供にいた青年はただ教祖の身のさわりなき様にと心を痛めるばかりである。夜になれば冷気がひしひしと加わってますます肌寒さを覚ゆるのであった。焚火たきびでもして教祖に進めんとすれど、絶壁の岩の上へ二十けん余も登らねば枯葉一つ落ちて居ない。そしてそれを搔き集めようとしても、此の島には生々いきいきした雑草のみで、枯木どころか枯枝一つもない。今はただ寒気と戦って行かねばならなかった。二人の青年は持ってきた水で毎日麥粉はったいこを溶かして教祖に進めるのがおもなる役目であった。二升余りの僅かばかりの水も、九日目には残り少なくなって来た。
 絶海の一孤島、もとより淡水たんすいのあろう筈がない。鹽水しおみずでは到底引用に供し得られぬので、二人は水のないんをかこつのみであった。教祖はそんな事には一向頓着とんちゃくなく、もっぱら祈願のみを事として居られる。若いものの口から弱い音を吐くわけには行かぬが、両人はただんとかして、の淡水を手に入れたいものと、日夜それのみを心配している。

 或日のこと教祖は、朝のひかりが海の彼方かなたから輝き出す頃には海水でうがいを取り、行場なる元の位置に立たせられたかと思うと、海上はるかなる海原を見詰めて
『ああ、勿体もったいない勿体ない、あの海の底に御座ござる神様が見えるか』
 と二人の青年をかえりみて云われる。かし其処そこに立って居た二人の青年の瞳には何物も映ずるものがなかった。
『教祖様、私達には見えませんが、ただ何んとなく有難い様な気がしてなりません』
 と両人は今更教祖のりょうそですがり着いてただりがた涙を流すのであった。又る時は両人に
『お前達の耳に聞えないか。海の底でリヨンリヨンと音がして居るが』
 と言われた。両人は耳をまして聴き入ったが、少しも耳へ響く音とてはなかった。
 くして教祖は神秘と交通しつつ、祈りの日を続けられた。


△神徳の淡水

 参籠中の或る日の事であった。後野市太郎はかねて教祖が、神に一本の松が上げたいとの望みがあったから、常にそれを心掛けて居たところ、さいわい岩間に生えている枝振りの良い一本の小松を見つけた。これならと岩根を危うく踏み辿たどって、それを両手に抜き取ろうとした刹那せつな、どうしたはずみか、手をすべらして、片手に松を握ったまま、岩間から断崖直下にある凸起とっきした谷の所まで真逆様にちて仕舞しまった。そこまで落ちた市太郎は、天の助けか幸にして、腰の帯が樹木の枝に引きかかってかろうじて一命を取り止めたのである。さて何處どこから上の方へ這い上がろうかと、あちこちと見廻して居たが、自分の立っている右手の岩間の所で、ぽたりぽたりと水のしたたる音がしているのであった。彼はそばまで四這いになって近づいて見ると、如何いかにもたまのような冷水が岩清水となって滴っているのである。彼は此の時、此の水が鹽水しおみずでなければいがなとぐ頭に浮かんだ。常々教祖に進める麥粉をく淡水がなくて困っている所であったから、彼は思わず知らず、両手を差し延ばして、其の一滴を口に入れた。あじわうて見るとそれは正しく淡水であった。彼のよろこびは如何ばかり、これぞ天が我に与えた恵みなりと、悦び勇んで伝吉の名を呼んだのである。
 轟々ごうごうと響き渡るうしほの音に、其の聲はとおらなかった。一方大槻伝吉は最初から市太郎の姿が見えぬので、不審の眉をひそめている。岩間の底の方で人聲が聴えるように思って居ると、果たしてそこに人影を見出した。伝吉は岩根をちからに市太郎の居る谷間に行って、其処そこで用意の竹筒に其の清水を汲み取ったが、それは辛うじて一日に一人が一杯の水を飲むだけに過ぎない水量であった(※1)く行場に在る三人は飢餓きがと戦わねばならなかった。


(※1)
出口澄「開祖 沓島ごもりのこと」
 そのころ、島では開祖様が御苦労の最中です。私が考えたように、島には飲み水がないのです。人間には食べ物が必要ですが、水がなくても生きてはいられません。
 ところがある日、みのかさを着て岩にもたれて寝ていられると、寒くて仕方がないので、柴を伐りに男二人が出かけたのです。そして、帰って来る道で一人が柴を谷に落とした。それをひろって上って来ると、ポタリと水が落ちます。なめてみると真水で、塩辛くありません。水、水、水だと大喜びし、神様は御用を仰せつけになるだけに、生きていく水も与えて下さると感激してそれを受けることにしたのだそうです。三人が飲むだけは自然にたまります。神様のお徳はまことに広大でありました。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
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プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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