第十四章「岩戸隠れの一條」 其の筋の干渉/山籠りの決心
○第十四章 岩戸隠れの一條
△其の筋の干渉
世はうき雲のそれに似て、またも妙 なる神業の庭に、続いて浮世 の嵐が吹き立てられて来た。それは明治三十四年初秋立つ九月ごろであった。
大本の教 に対して其筋 の干渉圧迫がいよいよ濃 かになって来た。当時の当局の考えは、公認を経 ざる宗教にあらざれば、信仰的集合を許す譯 には行かぬと云うのであった。
勿論其 の時代の大本は、信者も沢山殖 えて、支部も各所に増置される様になった。其筋の役人は日毎 夜毎 に広前の周囲に詰め掛けて張番をしているのである。近在から教会指 して寄々 集まって来る信者の出入を堰 き止めようとしたのである。こうなると勢い官権の圧迫で信者も一人減り二人減りして、残るは唯 熱烈な信仰を以て教祖と共にする僅かの世話掛 りと、役員のみを余 すの静寂を見るに至った。
爰 に於いて役員間には、大本をこの儘 にして今の状態に置 けば、益々神業が世に誤解され、且 つ今日までの教祖の艱難辛苦も水の泡となると云うので、愈々 其の善後策を講ずる事となった。其 の結果、従来の組織方法を改造して、法人組織として、皇 道 会 なるものを設ける事に決めたが、扨 て此 の新 なる組織方法に改めるに就 いては、更に此 の種 の組織に経験ある静岡県の長澤 雄楯 なる人に審議を重ねる必要が生じたので、一応是等 の計画を教祖に告げ、最後の判定を乞うた時に、教祖は恭 しく神前に伺 われた。
『仮令 警察から何 んと云うて来ようと構わぬから、其 の儘 に打捨てて置け』
との神託 であった。さあ、そうなると役員同志の仲 に議論百出して、教主〔王仁三郎聖師〕と木下慶太郎 を除いた他の人々は
『恐 れ多い事ながら、このような大事業が人間の力に及ぶものでは御座 らぬ』
『山の如 な大きな我等の神様だ。これを見 す見 す御上 の為 めに破られてたまるものか』
『人間の力に及ぶか及ばぬか、ただ神様が知って居 るだけだ』
『めいめいが今日まで教祖の為 めに骨身を惜まず辛 い賦役 をしたのも、皆 神様の力で動いて来たのだ』
『めいめい卑 しい者の謀 り知る事の叶 わぬ神様の大きい力がある以上は警官の圧迫位 にへこたれては居られない』
『そうじゃ、そうじゃ、長い間の俺達の楽しみが、ふいになって仕舞 う』
銘々 が勝手な事ばかり喋り立ているので、教主もほとほと閉口している。一方其の筋側では益々干渉が露骨に且 つ激しくなって来た。此 の儘 に打ち捨てて置けば、皇道大本は全 く自滅の外 はないので、温和派の役員もほとほと其 の措置に困り抜いた。背に腹は換えられぬの譬 の通り、教祖はあの通り頑 として神託を固持して、唯々 打ち捨て置けとの仰 せ。此の上は詮方 もないと云うので、教主は或日密 に役員の木下慶太郎を呼んで、教祖や外の役員へは極 秘密にして遂 に静岡の長澤を訪問する事に決したのであった。時は明治三十四年九月八日の前日であった。
△山籠りの決心
斯 る経緯 の上から、教主と木下とが静岡さして旅立ったと云 う事を露ほど知らぬ教祖は、今日しも森々 とした神床に額 いて一念に祈願を篭 めている。其処 へ一人の役員が急 しく教祖の許 へ駆けつけたが、教祖は丁度其 の時神懸り状態であったので、役員の来た物音は耳に這入 らなかった。
やや暫時 黙想して居 られたが、始めて気が附かれたかの様に、後向きになって役員の顔をじろりと見られた。気を急 かして居る役員は
『実は此 の事は教祖様に申し上げては悪いので御座 いますが、後でお知りになって、お叱りを受けてはどうかと思いまして、お知らせ申しますが、昨日教主様と木下が静岡に参られました』
此 の事を始めて聴かれた教祖は、いささか顔色を変えて
『あれほど厳しく云 いつけて置いたのに、木下等の所業は神勅に反 く怪 しからぬ仕打ちである。神代の素 戔 嗚 尊 の御行跡 にも等しき罪の遣 り方 であるぞ』
教祖も神の心を知らぬ役員等の頼み甲斐なき事を知り、これが教祖の天 の岩戸 隠れ家を探す動機となり、霊験あらたかなる弥仙 山 に参籠 すべく思い立 られたのである。
綾部の東北に聳 え立つ霊山、これぞ神世に由縁 深き弥仙山 である。森々 とした杉の木立 、霧は山を閉ざして、昼猶 暗き幽寂 の山であった。中腹に一つの神殿があり、其処 には彦 火 々 出 見 之 命 の社 がある。其 の岩戸へ向け教祖は役員中村竹造 、後野 市太郎 の両名を引き具 として旅立たれた。途 すがら近村 大石村の木下宅に立ち寄られて、新菰 一枚と麥粉 数合 を整えて参籠の用意とされた。陽 のある内に登山せんものと急いで弥仙山の麓 まで辿 り着いた時は、何時 しか秋の日も彼方 の西の山の端に傾いて、季節違いの日暮 し蝉 がカナカナと四邊 を騒がしている。山気 はいよいよ深く冷気も加わって、いとど肌寒さを感じた。中村・後野の両人は山道に差しかかってからも、人跡絶えた此 し山奥へ教祖を獨 り残して帰るは、誠に後髪引かるる心地もして
『今晩一夜だけなりとも私達に御参籠の御供をさして下さる様御願いで御座います』
と教祖の袖 に縋 って嘆願したが、教祖は凜々 しくもそれを許さなかった。
『それは相成 らぬ。何用あろうとも今後決して此の御山へ来てはならぬぞ』
ときっぱりと云い放たれた。両人は仕方がないので、今は何事も教祖の神業の妨 げにならぬ様にと、心は後 へ引かれても、別れの言葉を述べて其の日の内に下山したのであった。
其夜 両人は此の事を第一番に四方 平蔵に告げて置かねばならぬと云うので、旅の疲れた足を引きづりながら、四方の許 を訪ねて事の顛末 を物語ったのであった。
△其の筋の干渉
世はうき雲のそれに似て、またも
大本の
勿論
『
との
『
『山の
『人間の力に及ぶか及ばぬか、ただ神様が知って
『めいめいが今日まで教祖の
『めいめい
『そうじゃ、そうじゃ、長い間の俺達の楽しみが、ふいになって
△山籠りの決心
やや
『実は
『あれほど厳しく
教祖も神の心を知らぬ役員等の頼み甲斐なき事を知り、これが教祖の
綾部の東北に
『今晩一夜だけなりとも私達に御参籠の御供をさして下さる様御願いで御座います』
と教祖の
『それは
ときっぱりと云い放たれた。両人は仕方がないので、今は何事も教祖の神業の
テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体