第十二章「神と人のいきさつ」 嘘で堅めた術策

△嘘で堅めた術策

 種痘しゅとう罰金上納じょうのう一件から、すっかり人気を落として仕舞った教主〔王仁三郎聖師〕は、全くひとりぼっちの淋しい生活をせねばならなかった。其後そのごは教主を迫害しようと試みる愚痴ぐち頑迷がんめいやからが続出する様になった。四ツ足呼はりされながら、悶々もんもんうちに日を送っている或る日であった。青柴、田中、上仲、辻など云う連中が教主のもとへ訪づれて来た。
『今日支部の発会式がいとなまれるから是非ぜひ先生にも臨席して貰いたい』
 せつなる頼みであったので、教主も四人のものと同伴してく事となった。途中は色々な世間話に花咲かして打ち笑いながら、丁度ちょうど観音峠と云う物淋しい所までやって来た。の峠の手前に一つの古い池があった。其の池のそばで一服煙草を吸って、ゆっくり参ろうと云うので、松の枯れ株に腰かけて休んでいると、教主の後にまわった一人の男が、物をも言はず力限りに両手で、教主をば前の池に向けてドンとばかりにき出した。不意を喰った教主は、まっ逆様さかさまに池の中へどぶんと水煙を立てて落ちた。教主はもともと泳ぎは達者であったから敏活に水の中で着物を脱いで、抜き手を切って陸へ上ろうとすると、また一人の男が今度は竹の棒で教主が這いあがらぬ様に衝き出した。陸上の四人の者は、良い気味と云わぬばかりに嘲笑ちょうしょうし始めた。
まつばやしと云う悪神の守護神、ね去ね。先生にはまぬが、小松林が不可いかぬ。外国魂は除けねばならぬ。外国魂が苦しがっている、い気味だ』
 誠に愚直ぐちょくにして頑迷な迷信家たちであった。彼等四人は今日しも、教主を園部そのべの支部の発会式を種にして、それに出席して貰いたい等と口実を設けて誘い出し、の始末に及んだのであった。全く真赤な嘘で堅めた術策じゅつさくであった。
 教主は何時までも池の水の中につかって居るわけにもゆかず、岸へ上ろうとすれば、彼等は力をあわはして、そうはさせずと衝き出すのであった。ほとん進退しんたいきわまって仕舞った。うなれば自分から温和に謝罪すれば助かる事と思案して、教主は池の岸辺に両手をかけて、まるで濡鼠の様になったまま
『皆さんの云う事がく判った。池の中へ入れられてから、もう外国魂も何處どこへやら消え失せました。小松原の悪い守護神も去りました。これこの通り空々からからだ』
 自分の濡れた腹を、ぽんぽんと二つばかり叩いて見せた。全く斯様このようわざは小胆なものでは出来ぬ。やうやう四人の者共が安堵したと見え
『さあさあ許してやるから上がれ』
 ようやく許しが出た。教主はぶるぶる体を震わして濡れた着物を其処に置いて、隙があったら出置いて逃げ出そうとしたが、仲々彼等は逃がさない。彼等はそれでもき足らぬと見え、又もや今度は教主の左右の手を両人でしっかり握り上げ、一人は両足を抑えつけて、残りの一人が何時いつの間に用意して持って来たのか、藻草もぐさと線香をたもとから取り出して真裸体まっぱだかになっている教主の背中に向けて、大きなおきゅうえ始めた。
『こりゃ、小松林の四ツ足の悪の守護神、んと心得ているか、御方おかたは貴様等の入物になる様な御方じゃない、早くんだ去んだ』
 教主こそ迷惑千万である。冷たい水攻めから、熱い火攻め、たまかねねて聲を出さずにいられない。
『もう、四ツ足が最前さいぜんから去っている筈だから、そんなにお灸には及ばぬ。もう去って仕舞った、許せ許せ』
 いくら教主が、大きいこえを張り上げても、人里離れた此の観音峠の麓、今はどうする事も出来なかった。彼等はそれでもなお満足せないで、今度は仰向けにして胸から脇の下にかけて、所選ばずむやみやたらにくすぐり始めた。痛いやら、熱いやら、くすぐったいやら、教主はほとんどあらゆる苦痛を堪えて居た。そしてなおも引っ切りなしに
『さあった、去ったか』
 と責め立てる。教主はただただ観念らして無言で居るよりほかに手はなかった。彼等は猶もい気になって責め続けた。教主も最早忍耐は出来なくなって、天にも響き渡るような聲で
『もう去ったと云うに、だ責め立てするか、今度は当方こちらで神罰を当てるから、其処そこ一寸も動くな』
 われて、彼等は始めて気が付いたように、じろじろ気味悪るそうにして教主の顔を眺めていた。最前からの意気込みも何處どこへやら平身低頭して幾度も謝罪した。教主は深く立腹もせず、何事も神の了解あるまではこうなきものと諦めて、濡れた着物を身にまといながら、我家へ戻られた。そしての日に危害を受けねばならなかった原因を深く考えた。多くのそうした妄執もうしゅうを取り拂うべく心を悩められた。の後はいろいろな事件が次から次へと、教主の身の廻りを取巻いた。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
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プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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