第六章「偉人か奇人か」 二度目の會見

△二度目の會見

 薄暗い土蔵の壁際の神床の前で、今しも夕方の祈禱きとうをしている教祖のもとへ、四方は静かに歩を運んで、のお祈りの終るのを待っていた。やがて教祖は祈祷も終わったと見えて、是方こちらに向きを換えられた時、
只今ただいま戻って参りました。そしてあの先生(教主)をお連れ申して来ました』
 と静かに挨拶の言葉をべた。教祖はすこしく顔をやわらげて、さも打ちくつろいだ様子であった。
『ああそうかの、して先方せんぽうではどうな様子だったかな』
 と尋ねられたので、四方はぼつぼつ先方へ行ってからの模様から、そして昨年教主出綾以後の動静などを事細かに物語った。教祖は
『そうかの。お前さんの話振りでは大変よく判るやうな気もするが、とにかくかた此方こちらへお通し申してな』
 とわれて、四方は今更気が着いたように、門の外に待っている教主をば、破れ畳の敷き詰めた土蔵の中へ案内した。教主はここでまた一年振りで教祖と会見したのであった(※1)。いろいろと話は進んだ。お粗末な夕餐ゆうげぜんも運ばれた。教祖は何か思うところがあるごとく、頬にかかった銀髪を搔き上げながら
『私は今迄いままで神様に出て貰ふ様にと思ったが、私達の力に及ばぬ。しかしかねがね聞きます所では、貴方あなたは富士山のふもとで御修行なされた御方との事ゆえ、すべて経験の厚い御方と見える。お年は若いが仲々なかなか人徳神徳を備えた方と思はれるから、私はあなたのの強い力にって、神様に出て頂いたらよろしからうと思ひます。何事もづ第一に神様にお頼みもするが、あなたを私は人間としての力とは思はれぬ程、強いお力がある事を信じます。此の上はうしとらの金神をおもてへ出して下されますか』
 とつぶさに念を押す内にも、教祖の謙譲けんじょうな言葉に熱があった。すべてが一言一句に或る鋭い刺戟しげき吐露とろされた。教主はやや黙想して居たが
たしかに神様を表へ出して上げますじゃ』
 最後のこの力強い教主の言葉にって、教祖も四方も安堵あんどの色が顔面に浮いて来た。れ以来教主は毎日教祖の神霊交融に依っておこるお筆先を熱心に調べて、の中核を捕えようとせられた。教祖日夜の神業は到底筆紙につくし得られない程敬虔けいけんなものであった。神人の交霊は益々深刻に発達されて行った。人をつうして神をうやまう心はゆくりなく満ち充ちて爾来じらい求めずして集まる信者は日に日に増すばかりで、土蔵の前は常に信者の人々にって満たされ、土蔵の内は崇嚴すうごんな拍手さえ響いて、神に捧げたしんせんぶつはいつもにぎやかであった。


(※1)
○「思ひ出の一二」 水鏡(昭2/10)
 私が初めて綾部にいった時に持って行ったものは、手帳一冊、鎮魂の玉一個、天然笛一個、会員名簿一冊、ただそれだけであった。それを小さなかばんに入れて持っていった。いた綾部の教祖様の御住宅は六畳一間の土蔵で、教祖様のお膳が唯一個あったばかり。私が行ったら忽ち私のお膳や茶碗を買ふと云ふ始末で他に何もなかった。三十年の歳月が流れて、綾部にもあれだけの建物が立ち、道具も揃ひ、亀岡にもこれだけの建造物が出来た。かえりみて多少の感慨かんがい無きあたはぬ次第である。
 私は生母よりも教祖様の方がずっと心やすかった。また教祖様も自分の子供の誰よりも一番私が可愛かったのである。当時長男の出口たけぞうさんが、そそのかされて、「私が家の後取りである」と云ふて怒鳴り込んで来た事があるが、私は竹造さんを転がしてやった。教祖様は見て居られたが、「よく叱っておやりなさい、も少しこらしてやれ」と、私の肩をもって、自分の子をたしなめられた。
 私に対して怒られるやうな事は一寸もなかった。私も教祖様を大切にした。月のよい夜などはよく教祖様を背負って神苑しんえん内を散歩してあげた。子供のやうに喜んで、背の上から、あれは何と云ふ木か、石かなど聞いて居られた。私が居ないとさびしがって「先生はどこに行かれたか、早くお帰りになるとよい」と云はれて、私が家に居さへしたら御機嫌がよかった。神懸りになると喧嘩をしたが、それは神様同士の争ひであって、肉体ではお互に何ともないのだから「先生叶ひませんなあ」と云ふてなげかれた事も度々あった。思へば長い昔の事であるが、昨今の如くなつかしい事である。



テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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