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第二章「教祖神懸りの発端」 突然夢境に入る

△突然夢遊境に入る

 越えて明治二十五年、時は正月元旦夜のことであった。人は屠蘇とその香に酔ってまどろかなる夢を結ぶ真夜中頃、茅屋くづやの壁際に端座たんざしてとろとろと燃えうつる爐邊ろへんの火をまわしてゐる刀自とじの瞳が、月こそ無かった深夜の空に星ほのあかるきひかりを窓越に我を忘れ時を忘れて眺めるともなく眺めて居る内に、夢かそは夢ではない、うついなうつつにあらざる境地に入ったのである。身體からだあたかも天女のように高空を自由自在に駆けめぐることが出来得るようにるやかに、色、形、臭いの意識もたちまち整然として、心はたくましい想いの力に、すべてが一種の静寂森閑しんかんとした神境に引きづられる様におびき出されたのである。そこには今まで悪臭を放った燃え掛けのまきもなく、壁際を漏る夜嵐よあらしもはたと止んで静かにけて行くのである。

 ふと刀自の前面に展開されたものがあった。見れば其処そこには美麗びれい はんかたもない大小の宮殿楼閣ろうかくが、右と左にむねを並べてつらなってゐる。そしての中央とおぼしい所に一つの大きい正門せいもんが設けられ、其処そこには門番らしき人も監視人らしい人も居ない。だんだんそれに近寄って行くと、出入は其の人の意のままに任せてある様に、おそる怖る門内に這入はいって見ると其の正面の所にあたって、一人の白髪童顔の神らしい人が、座をめて居たのである。顔容かんばせいやが上に気高けだかく、白髪を長く垂れ、落ち着きはらった態度相怡そうごう何にたとえ様もない神々こうごうしさに、刀自はただあたりの光景に心も気も奪はれて、はっとして覚えず知らず暫時しばらくためらってゐると、神はしづしづ座から立ち上がられた。そして刀自の手を取って、更に奥深い神殿の方へと導かれて行った。

 奥殿おくでん階下かいかと思はれる所まであゆみはこんだ時、さて案内に立った神は其処そこに刀自ひとりを暫時たせ置き、ただ一人昇殿するのであった。其の神の後姿を凝視してゐると、何んとも云えぬ木のにほひのする階段の上で、他の神に何事か奏上そうじょうせらるるものの様であった。しばらくしての神が戻られて元の座に着かれた時には、んとなく刀自の心がざわざわと打ち乱れて、気もそぞろに其処に居堪いたまらず、急いで一目散いちもくさんに元の門前にして仕舞った。それからうしとらと思う方角へまわって見ると、これはしたり其処そこには最初見た殿堂よりは幾層倍はあらうと思はれる大きい神殿があって、黄金瑠璃るり真珠をちりばめた楼閣ろうかくは實に眼もくらまんばかりで、此処ここにはまた前の神よりも一層気高けだか大神おほかみが居られたのであった。身には金銀寶玉ほうぎょくもって飾られたかんむりいただき劍をけ、束帯そくたい悠揚ゆうようとしても云はれぬ有様に、刀自の胸は益々ますます騒ぎ総身の毛は一時によだつばかりで、嘆美たんびこえげる事さえ出来なかった。ただ夢幻のうちに茫然としてゐると、ややあって其の大神は刀自の眼前ほとんど咫尺しせきの所まで静かにあゆみうつされた。大神は暫時しばし刀自の面持おももちをながめられてゐたが、温顔おんがんに微笑をたたえて何のお言葉もなく元の神座かみくらかへられた。

 の時ばかりは刀自の心の底からは畏敬いけいの念が躍如やくじょとしてで、ただ其の有難ありがたとうとさとに一杯になって居た。此の稀有けうきょうにあって今は何事も何物をもかえりみるいとまもあらばこそ、ただ身はそはそはとして急いであゆみを返して固くとざされてある門扉もんぴを開いてひた走りに走り出で、やや数丁も来たかと思うところで、胸の動気を静める為に足を止めた。不図ふとあたりを見渡すとここにも又うるはしい屋舎をくしゃが建って居る。見るともなしに瞳を上げると、舎内しゃないには先年の世を去った良人おっと政五郎がさもよろこばしそう面影おもかげで、平和な微笑をさえ浮かべての中に安座してゐるので、今は幽明ゆうめいところことにしてゐる我が良人と思いも寄らぬ場所で邂逅かいこうしようとは、例え飛び立つ思いの喜びがあっても、暫時しばし茫然としてづる言葉もなかった。心は喜びを静めて互に話を交はし、かつて此の世に在りし時のくさぐさ、宿縁浅からずして今此処ここにて出合いしこと共など、心行くばかりの会話に時の移って行くのも知らなかった。それにしても一刻も早くの喜びを我がいとにも物語って喜び顔を見んものと、名残なごりは更にきぬ別れを良人に告げて、其の場を立ち去ろうとした時に、忽然こつぜんとして元の我が身に帰った。其処には巍々ぎぎたる殿堂もなく、良人の姿も見えず、今までの夢幻の環境も何處どこへやら、いたづらに破れ屋の隙間漏る寒風に、夜は深々とわたってゐる。愛児いとしごたちはすやすやと何れも深いねむりに落ちてゐる。明日の羽子はご打つ遊びに、こまやかな夢を結んでゐるらしかった。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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