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実説 本心-高熊山(壱)

☆『実説 本心-高熊山』
<機関誌「このみち」第三号(大正五年六月十日刊)に、当時王仁三郎が最も信頼していた幹部・梅田信之(常治郎)の名前で発表。のち「神霊界」大正十年一月号に、続いて「霊界物語」第三十七巻第一編“安閑坊喜楽”第二章から第六章に収録された。「霊界物語」版は加筆修正されている。『本教創世記』第三章との対比も面白い。>

 かくすれば かくなるものとしりながら ひくにひかれぬやまとだましひ

 天明らけく地治まれる聖明(ひじり)の御代の三十余りの一つの年、頃は如月の九日、半円の月は皓々(こうこう)として天空に輝き渡り、地にはふく郁たる梅の花の薫り床しく、人の心も花やかに、素人天狗の浄瑠璃会に、老若男女の群集は、蟻の甘きに集う様なり。吾妻太夫の三筋の糸に曳き出されて、先登一の登壇者はかみしも姿厳(いか)めしき長楽太夫、田舎娘の肝煎らせつつ語るは熊谷(くまがい)一の谷敦盛卿おの組み打ち場、壇特山の憂き別れ迄首尾よく演り付くれば、やれ「露払い万歳」と拍手の肥は雨霰、降って湧いたる大人気なり。
 続いて三調・駒太夫・四明・勇山次々に素人天狗の銅鑼声や根深節も、物珍しき田舎人の耳には天女の音楽とも聞こえ、大当たり大持てにて、恰も鰯網もてくじらの『太功記(太閤記)』は十段目、「夕顔棚の此方よりも露われ出たる武智光秀、必定久吉此の家に忍び入る社屈一竟(こそくくっきょういち)、唯一討と気は張弓、心は矢竹……」と糸の調子に打ち乗りて、一生懸命語り行く。
 折りしも軒の藪垣押し破り、顕われ出でし四、五の暴漢、物をも云わず突然座敷へ乱入し、驚く聴衆に眼もかけず、四辺蹴散らし踏み散らし、檀上の太夫を引き摺り落とし、猫が鼠を握みし如く、凱歌を奏して戸外へ掲げて行く。一座は興醒め周章狼狽、互いに眼引き袖引きつつ、後難を恐れて誰一人仲裁の労を取らんとするものなし。ああ今捕らえられて行った若者は誰であろう。ああ彼が運命や如何に。今の今まで照り輝きし無心の月は、忽ち暗雲に閉じられて西山の頂に影をかくすのであった。

 茲は精乳館の牧畜場内、舘長室の戸は堅く閉ざされて、一団の不可思議が潜んで居る様子。牛乳配達夫は未明より舘長の量り渡しを待って居る。旭日は遠慮会釈も無く天に冲する。舘主は何時まで待っても起きて来そうに無い。余りのじれったさに、配夫は本宅の方へ走った。暫くすると、母は配夫の後から面色を変えて行って来て、突然、雨戸を押し開け忽ち王仁の寝室に。
 顔を見られては大事と手早く夜具を被らんとした。此の時遅く彼の時早く、母に額の負傷を認識されてしまった。ああ是非もない、母はわっと其の場に泣き倒れた儘前後不覚。ああ何とせん方涙なくなくも、庭の真奈井の清水を口に含ませ介抱すれば、正気付きぬ。母は涙をぬぐいも敢えず語るよう。「去年までは是の父親が生存して居られた為に、何人にも攻められ苦しえられた事は一度も無かったに。後家の子だと思い侮って、此様な惨酷(みじめ)な目に合わすのであろう。ああ悲しい。夫の逝かれた後は、此の王仁一人を杖とも柱とも頼んで憂き年月を送って居るのに、去年の冬からこれで、ちょうど九回目、打つやら蹴るやら乱暴狼藉、九死一生の苦しみを加うるとは、ああ何たる世間は無情ぞや。弟の周章者(あわてもの)は夜前復讐とかに往って、反対に大負傷を受けて帰って伏して居る。思えば思えば残念至極、誰か強い人が来て兄弟二人の敵(かたき)を打ってくれる人は在るまいか、神も仏もなき世か」と、子故の暗に迷う親心。
 愚痴の繰り言聞き入る王仁の心は千万無量。

 母気絶の急報に、八十五歳の祖母は気丈の性質とて杖にすがりて入り来たり。此の場の様子を早くも呑み込み王仁に向い、「汝は最早二十八歳、物の分別も解らなならぬ年比(としごろ)では無いか。如何に義侠だとか人助けだとか謂って人を助けても、我が身の亡ぶ様な人助けはちと考えねば成るまい。相手も在ろうに、兇悪無頼の博徒輩と喧嘩の達引とは如何に物好きにも程度が在るではないか。汝は平素強気を挫き弱気を扶くるが日本魂(やまとだましい)じゃと謂って居るが、八面八臂の魔神ならば知らぬこと、そんな怯弱な身体で居ながら無謀の挙動(ふるまい)は何事ぞ。八十に余る生い先短き老母や、良人に逝かれて間もなき一人の母や、まだ東西も弁え知らぬ頑是なき可憐の妹の在るのを汝は忘れたるか。妖怪学だの哲学だの無神論だのと空理屈(からりくつ)ばかり言うて勿体ない。神々を無視して居た報いが来たのであろう。宜しく冷静に反省して見よ。
 今回の事は、全く天地神明の御神慮に依って慈愛の鉄槌を汝の面上に降し玉いて、平素の小高き鼻柱を折らせ玉うたのであろう。必ず必ず兇漢を恨むことはならぬ。一生の大恩人だと思うが良い。韓信の股を潜ったのも時世時節じゃ。踏みにじられた蒲公英(たんぽぽ)には殊更厚い花が咲く例(ためし)もあるからなぁ。それに付いても亡き汝の父上は、幽冥から其の行状の直る迄は高天原へも得行かずに、中空に迷うて居るであろう程に、全然心を入れ替えて真正の人間に成ってくれ。それが祖母への死土産だ」と、涙を片手に慈愛の釘打たれて、王仁は唯無言。
 森厳なる神庁に引き出されて神の審判を受くる心地。負傷の痛苦も打ち忘れ涙に呉るる折しも、近所の人々見舞いの為に入り来たる。表には小学生が声を揃えて節面白く、

  父よ恋しと 墓山見れば 山は狭霧に 津々まれて
  墓標の松も くもかくれ 晴るる暇なき そでのあめ

 屋根には鳥が唯一羽、「可愛(かあい)々々」と鳴き立つる。牧牛は空腹を訴える如に大声に吠ゆ。

  皇神は めぐみのむちをあたへつつ 心のねむりさまし玉へり
  よきことに まがこといつきまがことに よきこといつくよのなかのみち(宣長)
  ことわりの ままにもあらずてよこさまの よきもあしきも神のこころぞ(宣長)

 夜は浸々と更け渡る、水も眠れる丑満時刻。森羅万象寂(せき)として声無きに、王仁の胸裏の騒がしさ。昨朝の祖母の教訓や母の悲歎は未だ耳に在る。胸には警鐘轟く雷、得も言われぬ煩悩苦悩、今という瞬間は有力なる神なると共にまた悪魔なり。善悪正邪の分水嶺上、忽然として一点の旭光に接したのである。一点の旭光、そも如何、直霊の魂(みたま)の反省、これ。

  久かたの あまつ月日のかげはみじ からの心のくもしはれずば(宣長)

 父ばかりが大事の親では無い、母もまた大切なる親である。祖母はまた親の親である。斯かる見易き判り切った道理を、今迄漢心洋意の狭霧に包まれて、勿体ない。父ばかりを尊み、母を軽視して居たのは大間違いだ。父が亡くなった以上は、もう何事を為しても心痛する親は無きものと思い、任侠気取りで数々危険の場所へ出入りし、大恩ある母の思いを今迄気付かなんだのは、ああ何たる迂愚ぞ、そも何たる不孝ぞ。ああ諺にも「いらわぬ蜂はささぬ」ということがある。生じいに無頼の悪人輩と戦い且つこれを挫かんとしたのは、余り立派な行為でも無い。蛇が折角千幸万苦して漸くに蛙を捕らえ、今呑もうとする際に人あり、其の蛇を打ちたたき弱い方の蛙を助けてやったなら、其の蛙は大いに喜ぶであろうが、肝心の餌を取り逃がされた蛇の心は如何であろうか。

  世のなかは よごとまがごとゆきかはる なかよぞちぢの事は成(なり)つる(宣長)

 母は愛に溺れて我が子の失は少しも顧みず、唯父が亡くなったから、人々が侮って忰を虐待するものだとのみ思いひがみて居らるる様だ。父の亡くなったのは、王仁ばかりではない。広い世の中には幾千万人あるとも知れぬ程だ。されど父が亡くなった為に世間の同情を得たものこそあれ、王仁の様に、たとえ一部の社会にもせよ憎まれたものは少ない。鐘も撞く者が無ければ決して響くものではない。之を思えば祖母の教訓は真の神の直論である。一々万々確固不易の真理だ。心一つの持ち様で、親や兄弟妹や他人にまで迷惑をと思えば、立って居ても居られぬ。改過の念は一時に。
 心機忽ち一転再転、終には感覚の蕩尽、意志の断滅。

 翌朝になって王仁の姿が見えぬ、家族は大心配。不図(ふと)床の壁を見ると筆太に、

 『大 本 大 神』

 しかも王仁の筆跡。机の引き出しには羽化登仙の遺書一通。

  あやしきを あらじといふは世のなかの あやしきしらぬしれごゝろかも(宣長)

 そもそも遺書の文意は如何。天下国家の一大事、然も三大秘密。王仁の生母は忽ち火中に投げ入れた。後日の難を慮ったのであろう。
 渾円球上二つなき、三国一の四方面、富士の神仙本田芙蓉仙人の神使 松岡大天狗は、王仁を学者の所謂夢中遊行に導き、其の霊魂は遠く高く天空に逍遥したのである。芙蓉仙人は茲に六神通の秘奥を授けた。仙人の目的は社会の改善・宇内哲学の一変・皇道の発揮・宗教倫理の改革、王仁果たして此の大任に堪えるであろうか。外に一冊の教示、書名は『天啓』。
 有明の月は西山の頂に薄れゆく。ふと顧みれば王仁の巳は高熊山の巌窟に静座して居る。ああ不可思議の極み、眼下の渓路を薪刈りの若者二、三、野卑な唄を高く謳って通る。


テーマ : 心に響く言葉・メッセージ
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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