大地の母 メモ15 直の昇天


 1918年(大正7年)新暦11月6日(旧暦10月3日)早朝、福島久子(ナオ開祖三女。以前に金毛九尾が憑いた人)はナオの寝室に入り、母の足をさすろうとした。ナオが水を所望するので湯呑みを運ぶと、ふだん一杯しか飲まないナオが二杯目を頼んだ。
久「教祖はん、えらいことお水をいただけれはりますなあ」
直「はい、えっと喉が乾いていたので、大変おいしかったわいな。神様のお恵みを心ゆくまでいただいて、もったいないことじゃった」
 ナオは久に手を引かれて厠へ行き、戻る廊下で空えずきすると、娘の腕にもたれかかって崩れた。久の側近・星田悦子が駆けつけて神前の御神水を無断で頂きナオに渡すと、拝むようにして飲み干す。ナオは廊下の柱にもたれ、「ああ、しんど……」と呟き、ウトウトと眠りかけた。久と星田が二人がかりでナオを教祖室に運ぼうとすると、ナオは目をあけ、ほやっと笑み何か二言ほど語りかけたが、そのまま意識を失った。この頃、王仁三郎、澄、直日(王仁三郎・澄夫妻の長女、ナオの孫)達が駆けつけてきた。あまりに楽そうなナオの寝顔なので、これが臨終に近づきつつある姿だと悟った者は、誰一人としていなかった。ただ王仁三郎を除いては。
「きっと艮の金神さまがちょっとの間、御肉体からお出ましになったのじゃ、そのうちお帰りになろうよ」と誰かが仔細ありげに言うと、皆が素直に納得した。これまでも、これに似た状態が時々あった。『神様がいろんな所へ連れて行って下さる。居ながら諸国漫遊さしてもろてます』とナオは嬉しげに語っていたものだ。
 そうには違いないけれど、それにしても早くお戻り願わねばと、久は隣室の神前に祈願した。と、久の目に、いつも直が筆先を書く机に向かって直日が筆を取る幻影が映る。かねがね『直日さんが17になりたら世を譲ります』と言っていた母の言葉をとっさに思い出した。そう言えば半年前、『旧九月の末になりたら変わりたことがあるから、腹帯をしっかりとしめておくのやで』とも言っていた。今日は11月6日、旧ならば10月2日、数日遅れたが、もしかしたら御昇天の予言ではないか。そう思うと、久は震えが止まらなかった。居間に戻るなり、久は王仁三郎に聞いた。
「もしかしたら、これは……御危篤では……」
「そうでもないやろが……」と半ば慰めるように呟き、王仁三郎は複雑な顔をする。
「教祖はん、教祖はん」 ナオの耳に口をあて、王仁三郎は呼んでみる。義母の安らかな表情は変わらない。王仁三郎は顔を上げ、「お久はん、あんたの方が声がようとおる。あんたが呼んでみてくれ」 久が代わって懸命に呼び続ける。ついにあきらめて、久は血走った目で皆を見渡した。
「私が30日の度胸定めで十万道(地獄)へ参った時、祝詞の声が聞こえると無理にも高天原へ舞い上がる気がしたものじゃ。ぼやぼやしとらんと、ほれ、皆、祝詞を奏上しなはれ」
 昏睡のナオを囲んで、祝詞の声が沸き上がった。午後になっても、その状態は変わらず続いた。王仁三郎はしぶる役員達の尻を叩いて、各地に教祖危篤の電報を打たせた。

 波が間断なく打ち寄せるように、祝詞は朝から休みなく続けられていた。
 久と星田はナオの枕元を一歩も離れなかった。
 不意に星田が宙に目を据えて叫んだ。
「あっあっ、教祖さまが……」
 天上より薄い緋色の紐が幾筋もくだったと見るや、ナオの肉体が仰臥したまま引上げられそうになる。そうはさせまいと、星田は必死にナオにすがり、声を張り上げて祝詞を奏上した。久は久で、ナオの手を握りしめている王仁三郎に叫んだ。
「天照皇大神宮殿が迎えにこられたのじゃろう。今そんなことされてはどもならん! 先生、お祈りして下され」 王仁三郎と久が、神前に向かって祈願をこらす。
 午後9時半頃のことであった。霊気が居間の内外にみなぎり、星をちりばめたような絢爛(じゅんらん)たる瓔珞(ようらく)が天上より舞い降りてくる。それが畳二枚いっぱいぐらいの大きさに近づくと、83歳のナオの肉体から十二単衣を召した27-8才ほどの美しい姫が浮き上がった。そのお姿は王仁三郎と久だけでなく、四方平蔵や稲次要蔵もまた霊眼で拝している。
「ああ、稚姫君命(わかひめぎみのみこと)が天へお昇りになる!」
 王仁三郎の悲痛な声とともに、神言を奏上していた人達は、ふっと自分の肉体が天へ吊上げられるような感覚を味わった。久はたちまち神がかりして「義理天上日の出の神であるぞ。申し聞かすことがある。星田と牧はこれへ」と叫ぶ。星田と牧寛次郎があわててナオの枕辺を離れ、久の前に進み寄る。この時の問答を、星田日記は記述する。
「久『さ、ここじゃ、かねて申し聞かせし生証文にいたすは、その方両人。二代殿(出口澄)に取り違いなきように、三代殿(出口直日)を立派に仕立て申し上げねばならぬ。もしやこの御用をしとげずば、生首抜くぞよ、必ず、よいか……』 星田『いま一度、大神殿(ナオ)を戻して下され』と願い候へば、牧『皆の和合ができたらと申されたが、とても和合の間に合わぬ、いさい承知いたします。まずおん鎮まり下されたく……』とお鎮め申し上げた。大神殿は稚姫君命となりて、ついに天へ昇りなされた。かかる不思議なことは実におそれ入りて、口にも筆にも尽くされず、この時なりと先生(王仁三郎)に、牧殿、久子殿、星田とかたくお話いたしました」
 直の霊魂の昇天が午後9時半頃とすれば、ナオの肉体の死は約一時間後、静かに安らかに息を引いていった。乾いた声で王仁三郎が最後を告げ、ふいに部屋を出て言った。誰もが理不尽な宣告を聞いたように黙っていた。ややあって一人のすすり泣きが漏れるや、それが大きな波のうねりとなって神苑内を押し包んでいく。やがて犬の遠吠えのように、間を置いてオーオーと長く尾を曳く泣き声が廊下を流れてきた。まるで今夜の悲しみを独り占めしたかのような派手さである。統務閣につめかけた人達は、顔を見合わせてうなずいた。泣き声の主は言わずもがな王仁三郎だ。こういう時の教主の手放しの泣き様は、すでに六合大(王仁三郎の夭折した長男)の死で知れ渡っていた。


テーマ : スピリチュアル
ジャンル : 心と身体

プロフィール

真善美愛

Author:真善美愛
真善美愛まことと申します。東日本大震災の後、上野公園さんの『神言会-大本教神諭解説』に出会い、ぐちなお開祖・さぶろう聖師を通じてうしとら〔 艮 〕こんじんくにとこたちのみこと様に導かれます。それ以降、天の御先祖様(万軍の主、創造神)のお役に立ちたいと、良心神(個々の魂に宿る天帝の分魂、天照皇大御神)を奉じて活動しています。

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